2015年02月26日

飢餓列島13

東京ではいつの間にか雪は止み、夜明けにはまだ間がありましたが、あたりがほの明るくなっていました。初めは雑多な群集・暴徒として、闇雲にあちこちの邸宅を襲っていた連中はいつか合流し、自ずからリーダーや参謀格の人間が現れ、効率よく襲撃を行って一つ、また一つと邸宅群を占領するようになったのです。彼らの目的は極めてはっきりしていました。そうした大邸宅に隠された物資を奪い取るだけのことです。このような集団は都内の随所に出来始めていました。ここら一帯の大邸宅や高級マンションを焼き落とした彼らは今、丸二日攻めても落ちない三輪邸を前に、諦めるどころか目をぎらつかせて次の攻撃法を思案していました。これほどの防御力を備えているからには、よほどの物資がしまわれているはずだからです。

そこへがらがらと地鳴りにも似た響きをあげながら戦車がやってきました。クーデターに参加したものの、命令系統が狂い幾つもの異なる指令を受けるに至って戦線から抜け出した自衛隊たちが乗っていました。彼らはとりあえず戦車の力で物資を獲得した後、故郷へでも帰ろうと意見を一致させ、雪の都内を走ってきたのです。リーダーは物資を道にばらまいて戦車を止め、出てきた自衛隊員と三輪邸攻撃についての交渉を始めました。

衝撃が三輪邸を襲いました。非常ベルが鳴り響き、人々は地下ブロックに入りました。「スクリーンの用意はまだか?」三輪秀作が言うと邸内の機器を扱う主任技師が壁の装置を手早く操作し、モニターテレビのスクリーンが灯りました。そこには自衛隊の戦車がこの邸に発砲している様が映っています。戦車がもう一度砲塔を動かし照準を付け直して、また発射しました。その弾は燃料庫へと通じる階段がある建物を叩き潰し、グワーンと凄まじい音と振動を引き起こして地下ブロックを揺るがせました。地下に貯蔵された燃料が爆発したのは疑う余地がありません。三輪老人は、この様を見て笑っていました。自分への嘲笑か、巻き込まれた人々への憫笑か、この結果にユーモアを感じたか、誰にもわかりませんでした。スクリーン上では、戦車が塀を破り、その間から武器を握りしめた男女が殺到しているところでした。

「このままではやられてしまうぞ!戦うんだ!」鍋島は我に帰り、銃を握り直して地上への階段を登りだしました。部下もそれに続きます。残った人々は反射的に三輪老人を見ますが、老人は目を閉じて何も言いません。「何をぐずぐずしているんだ!みんな、侵入者を撃退するんだ」石光に煽られて人々は動き出しました。邸内各所から、激しい応射が始まりました。時たま手榴弾が投げられ、轟然と爆発します。侵入者たちはばたばたと打ち倒され、死んでいきました。一旦退いた侵入者たちは、再び突撃を開始します。主力は戦車が破った塀の後から、残りは反対側に回って塀に取り付き、よじ登ってきます。メンバーたちはただもう、その応戦に精一杯でした。正面玄関の一隊を指揮していた鍋島のところへ、三輪秀作の付き添いの看護婦が走ってきました。「すぐに来てください!大変なんです!」鍋島は部下たちに後を任せて地下ブロックへと駆け下りました。

メインルームでは石光と三輪老人が口論をしています。「そんなことができるか!ここを捨ててよそへ行くなんて、できっこない!」「どうした?」「ああ、あんたか。この老いぼれは降伏しようというんだ!」石光は振り向きました。「石光、お前には私の言っていることがわかっていない」三輪老人によると、まずストックをいくらか分けることで敵の何割かを寝返らせ、戦わせる。塀やその他の箇所も直させて、それが終わった集めて殺してしまう。ここにはもう燃料がないので、この危機を脱したら熊野、那智にある根上たちが受け入れ態勢を整えてくれているであろう第2基地へ移動する、ということでした。石光は那智になど今から行けるわけがない。根上たちが無事についているかも怪しい。だからここを守り抜くしかないという意見です。「わかりました。とにかく一時休戦の手配を行いましょう」鍋島は三輪老人に賛同しました。

「そんなことはさせないぞ!私はこの老いぼれに代わってここを指揮し守り抜くんだ!」石光は銃を鍋島に向けた。「つまらない真似はよせ」三輪老人は言います。鍋島は石光を見つめていましたが何も言わずに階段を登って行こうとします。味方としての情勢判断がある限り、本気で撃つわけがないと思ったのです。銃声が響き渡り、鍋島はその場に倒れました。誰も彼も自分のように計算ずくで行動しているわけではなかったのです。「これでいいんだ。今から、俺が総指揮をとる。わかっただろうな?」石光は三輪老人に言葉を投げました。老人は何も答えようとせず、目を閉じていました。

戦場に戻った石光は必死になって指揮をとり応戦しますが、守備側には疲れが出てきており、包囲網はじりじりと小さくなってきていました。そんな時、三輪秀作が発作のあと息を引き取ったという知らせが人々の間を駆け巡り、守備側の士気は一気にダウンしました。攻撃側の一隊がとうとう邸内に乱入しました。白兵戦になると屋敷の中の人々は脆くあっという間に殺戮と略奪が始まりました。地下ブロックに降りた石光は布をかけられている三輪老人の枕元に手を突っ込みました。老人がいつもそこに重要な鍵束を入れているのを知っていたのです。非常脱出口のドアを開けると、石光の子飼いの連中がどっと部屋に入ってきました。「待ってください!私たちは最後まで先生と一緒です!」石光は一言も言わず中から鍵をかけました。裏切られた者たちのわっという声が、すぐに聞こえなくなりました。彼は一筋の地下道が伸びているのを見て取ると、あとは振り返りもせずに走り出しました。

最後は内輪揉めで三輪邸のグループは壊滅しました。どれだけ入念に準備したつもりでも、本番はアクシデントの連続でそうそう想定通りにはいかないものです。場合によっては取り返しのつかない状況にもなりえますが、そんな時こそグループの真価、「結束」が問われます。リーダーの三輪秀作はその重要性には気づかなかったようです。
タグ:飢餓列島
posted by 河野 at 23:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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