2015年02月24日

飢餓列島11

今日の午後6時頃、内閣が総辞職したことが伝えられると、防衛庁の佐官級の幹部が隠密裏に計画していたクーデターを実行に移したというのです。これほどの事態の急変は彼の予想には入っていませんでした。他の方面の軍団はどうなっているのか、海上自衛隊、航空自衛隊は同調しているのか、クーデターを起こしてどうする気なのか。メンバー内で不毛な議論が起こりましたが三輪老人は、先ほど以上に苦渋の表情を浮かべて、それを打ち切ります。「とにかく、我々はこの邸を守り通すことを専一にするんだ。新しい情報が入ったらそのときまた話し合おう。皆、退ってくれ」一同は黙って客間から出ました。石光が最後に出ようとすると、老人が「君は残ってくれ」というのが聞こえました。

「起きて要吉さん。父が呼んでいるわ」夜明けも近づいた頃、根上は美子に起こされました。三輪老人と石光が揉めており、そのことについて相談があるのだと言います。美子に連れられ幾つかの廊下を曲がり、階段を上り下りすると他の部分とは全く違う日本式の一角に出ました。そこの襖越しから二人が言い争う声が聞こえます。「石光、私は君を見損なっていた」「もう知っていたはずだ。我々はお互いを利用し合っていた。そしてあなたは利用価値を無くしかけている。もう長くはないんだ」美子ががらりと襖を開けます。「とにかく、あなたが死ねばあとを引き受けるのは僕だ。熊野行きはこの男あたりに頼むのが一番でしょう」石光は言い捨てると、根上と美子の横をすり抜けていってしまいました。

「根上さん座ってくれ。さっきのことはもういい。君に頼みがある。南紀まで行って欲しいのだが、どうかな?」「南紀というと、熊野ですか?」「那智の近くだ」三輪老人によると、自分の読みより東京の騒乱は手荒になる可能性が高くなったので、それに備えるため那智の滝近くにある銅山に用意した第二基地を固めておいて欲しいというのです。「行きます」ここに居場所を感じていなかった根上は承諾し、自ら志願してきた竹里と、あと二人のメンバーを加え、美子の案内で晴海にある飛行場からトラベルエアで南紀へ飛び立つのでした。

実際、石光が言うことは正しいです。もう三輪老人は指導力を発揮できそうにないので、後を継ぐ人間が必要です。その場合、前線でリーダーを務められるだけの資質と人望は勿論のこと、トップの死にも動揺しない冷たさを持つ石光が一番適任です。
タグ:飢餓列島
posted by 河野 at 23:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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